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2014年3月4日

第132回傷ついた三菱地所レジデンスの新ブランド

 傷ついた三菱地所レジデンスの新ブランド

 「ザ・パークハウスグラン南青山高樹町」問題1

 2月上旬に各メディアが伝えたように、東京都港区南青山7丁目に建設中の高級マンション「ザ・パークハウスグラン南青山高樹町」が、施工不良によって販売中止の事態に追い込まれた。本コラムでは3回に渡って、この問題を分析する。

 「ザ・パークハウスグラン南青山高樹町」概要

 所在地─東京都港区南青山7丁目

 構造─鉄筋コンクリート造

 規模─地上7階、地下1階、塔屋1階

 総戸数─86戸

 平均専有面積─約102平方メートル

 平均価格─約1億4000万円

 平均坪単価─456万円

 竣工予定─2014年1月下旬

 引渡予定─2014年3月下旬

 事業主─三菱地所レジデンス

 設計監理─三菱地所設計

 施工者─鹿島建設

 設備工事─関電工

 平均価格は約1億4000万円、手付金は1割なので約1400万円になる。三菱地所レジデンスは契約解除に伴って、83戸分の契約者に対し、この手付金を返却。さらに迷惑料として手付金の2倍を支払う。しかし、契約解除に同意しない契約者もいるため、同社は3月中旬に説明会を開催することにしている。問題解決までにはまだ時間がかかると予想される

 残念なことに施工不良問題は絶えることはない。私は拙著『耐震偽装』(日経新聞社、二〇〇六年)の取材経験を通じて、今回の特徴は次の2点にあると受け止めている。

 まず、耐震偽装の姉歯事件では、購入者(入居者)は、入居予定あるいは入居済みのマンションが解体されることになったにもかかわらず、何の補償も受けられなかったため、経済的に大きなダメージを受けてしまった。それに対して、今回は事業主に経済的な体力があるため、手付金の返還に加えて、手付金の2倍の違約金が支払われる予定なので、「経済的な不安」はほぼ解消された。

 その反面、今回の事件では、「メディアの反応」が特異だった。

 1月24日─フジテレビ「スーパーニュース」が事件を報道。

 2月01日─「J-CASTニュース」がネットに記事を掲載。

 2月03日─「ブルームバーグ」がネットに記事を掲載。

 2月03日─「日経BPnet」がネットに記事を掲載。

 2月03日─「週刊ダイヤモンド2月8日号」が記事を掲載。

 2月06日─「朝日新聞」が記事を掲載。

 2月17日─「日経新聞」が記事を掲載。

 衝撃的な事件であったにもかかわらず、フジテレビ「スーパーニュース」の初報を、他のメディアはまったく追いかけなかった。

 続く第2陣は「J-CASTニュース」「ブルームバーグ」「日経BPnet」とすべてネット。第3陣で初めて活字メディアの「週刊ダイヤモンド」が登場した。

 しかし、全国紙の動きは鈍かった。その結果、「三菱地所の広告を掲載しているため、全国紙は報道を控えているのではないか」というあらぬ憶測さえ生まれた。その憶測が解消されたのは、2月6日に「朝日新聞」が記事を掲載した日だった。

 さて、この問題を不動産業界の立場から見ると、気になるのは三菱地所レジデンスの新ブランド「ザ・パークハウスグラン」の行方である。同社は次のように説明した。

 【「ザ・パークハウスグラン」とは】

 1 都心の稀少立地──マンション供給が少ない都心の人気立地。また、景観、静粛性、敷地形状等を総合的に判断し、都心のフラッグシップに相応しいと認められる立地。

 2 ザ・パークハウス最高水準、最高品質の住まい──当社最高水準の仕様・設備、ゆとりある広さ。高級感とゆとりあるつくり。

 3 ザ・パークハウス最高水準の暮らしのサポート──上質な管理とお住まい後のサポート。

 一方、ユーザーの視点から見ると、マンションブランドとは、次のような位置付けになる。


 今回の問題では、デベロッパーのブランド観とユーザーのブランド観が、食い違っていたことが判明した。「ザ・パークハウスグラン」は前途多難である。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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