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「斜め45度」の視点

2012年10月16日

第82回スーパーゼネコンの分譲マンション事業

 2012年4月、大成建設グループの大成サービスと有楽土地が合併し、大成有楽不動産が誕生した。当時、同社の広報室に、「新会社を象徴する物件が販売された場合、取材したいので、連絡してほしい」と依頼。最近、同社が「この物件」と回答してきた、「オーベル蘆花公園」(127戸)を取材した。

 芦花公園に道路を介して向かい合う約9000㎡の敷地に、4階建ての住棟を4棟配置。建物の外周部や住棟間の中庭に、世田谷区指定の保存樹を含む約80本の樹木を植えた、緑に包まれた美しいマンションである。第1期販売は11月~12月頃の予定という。

 

 この機会に、スーパーゼネコンと称される、鹿島建設、大成建設、清水建設、大林組、竹中工務店の分譲マンション事業に関する取り組み方をまとめておきたい。

 スーパーゼネコンは、互いに他社の動向を観察しながら事業展開しているために、事業内容はほぼ同じなのだが、どういうわけか、分譲マンション事業に関しては、取り組み方はまったく異なる。

 普通のマンションデベロッパーは、製造(開発)部門、販売部門を中核に、管理部門はグループ会社に委託しているケースが多い。これに対して、スーパーゼネコン系のデベロッパーは、製造・販売・管理だけではなく、設計・施工を重視している場合がある。

 大成建設─グループ会社として大成有楽不動産(製造・販売・管理)を有し、最も先行している。ただし、これまでは、大成建設が設計・施工している物件が少なく、グループの総合力を生かしているとはいいにくい面もあった。

 鹿島建設─同社開発事業本部が「製造」、グループ会社の鹿島建物総合管理が「管理」を担当し、「販売」に関してはマンションデベ系の販売会社に委託。

 同社の開発事業本部が「製造」し、設計部門が「設計」し、施工部門が「施工」し、かつ鹿島建物総合管理が「管理」するマンションは、「オール鹿島物件」と呼ばれる。この「オール鹿島物件」にはプレミアム性があり、数年に1回程度の割合で、首都圏ナンバーワンクラス物件の座を獲得してきた。

 清水建設─グループ会社として清水総合開発(製造・管理)を有し、「ヴィークコート」というブランド名で、分譲マンション事業に取り組んでいる。ただし、「販売」に関してはマンションデベ系の販売会社に委託。

 大林組─グループ会社として大林不動産があるが、分譲マンション事業はやっていないに等しい。

 竹中工務店─グループ会社としてTAKリアルティがあるが、分譲マンション事業はやっていないに等しい。

 このように、スーパーゼネコン5社を比較すると、東京を本拠地とする3社(大成建設、鹿島建設、清水建設)は分譲マンション事業を手がけているが、大阪を本拠地としてきた2社(大林組、竹中工務店)は分譲マンション事業を手がけていないという好対照になった。

 大成有楽不動産経営企画部広報室長の小林久視氏は、新会社の方針について、「大成建設グループの総合力をベースにした運営をしていく。当面は、技術力を生かして品質管理の向上に注力。将来的には、条件が整えば、大成建設が設計し施工する、いわゆるオール大成物件も実現させたい」と話している。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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