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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2012年8月14日

第75回マンション取材「初めての体験」

 住友商事と野村不動産が7月上旬、分譲マンション「吉祥寺御殿山HOUSE」の第1期販売を実施。全169戸中、129戸を販売し、「即日完売」となった。

 吉祥寺は不動産大手7社が実施する「首都圏 住んでみたい街アンケート」で、4年連続のトップになった。しかも、武蔵野台地に支えられ、かつ立川断層帯や新宿断層帯の影響を受けにくいとして、東日本大震災後には防災面からも評価が高まっている。そういう背景があっての、即日完売である。

 約1万1800平方メートルの敷地はJR社宅の跡地で、最寄りのJR吉祥寺駅からは徒歩10分。周辺には昭和の面影を残す落ち着いた戸建住宅街が広がり、自転車で行き来する人が目に付く。

 「吉祥寺御殿山HOUSE」の所在地は東京都武蔵野市御殿山1丁目。専有面積は61.82?120.48平方メートル、最多価格帯は7700万円台になる。

 このマンションの取材において、筆者は「初めての体験」をした。

 取材する場合には、通常、まず売主(事業主)の広報室に連絡し、了解を得た後に、モデルルームに取材に向かう。

 売主が複数の場合には、「物件概要」を見て、最初に書いてある、いわゆる「幹事会社」に連絡する。事業への出資比率が高い幹事会社が了解すれば、他社が異議を唱えることはない。

 よって、今回も、物件概要で最初に書いてある、住友商事広報室の了解を得て、吉祥寺駅前にあるモデルルームに向かい、企画担当者(住友商事社員)および販売担当者(野村不動産社員)に話を聞いた。

 しかし、取材していると、販売担当者(野村不動産社員)の口が重い。なぜなのか。

 聞いてみて分かったのは、「吉祥寺御殿山HOUSE」の場合には、住友商事と野村不動産の出資比率は50パーセントずつで、完全に対等であったこと。つまり、「幹事会社」は存在しない。物件概要に住友商事の名前が最初に書いてあったのは、単に50音順に表記したためらしい。

 すなわち、取材に際して、筆者は、両社の広報室の了解を取るべきだったことになる。販売担当者(野村不動産社員)の口が重かったのは、野村不動産広報室から「取材に協力すべし」という連絡がなかったがゆえに、話すに話せない立場に立たされて、ためらっていたためらしい。

 なので、取材後に、すぐに野村不動産の広報室に連絡し、事情を説明し、事前に連絡しなかったことを詫びて、「一件落着」となった。

 筆者は、ベテランジャーナリストと自負していたが、今ごろ、こんな「初めての体験」をするようでは、まだまだ一人前ではない。要「自戒」。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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