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「斜め45度」の視点

2017年1月17日

第235回鉄筋コンクリート造マンションの建築費は2020年以降も上昇?

 建築専門誌『日経アーキテクチュア』の「先読みコスト&プライス」に昨年末、マンション・デベロッパー各社にとって、頭が痛くなるような解説記事が掲載された。

 記事のタイトルは、「2020年以降も労務費上昇続く──職人作業の多い鉄筋コンクリート造マンションに影響」、となっている。

 寄稿者は建築積算分野の実力者、サトウファシリティーズコンサルタンツの佐藤隆良代表である。同氏は国土交通省の建築着工統計調査報告などを参考にして、鉄筋コンクリート造マンションの建築コストを分析した。

 まず鉄筋コンクリート造住宅の「建築コスト」の変化である。

 図に示すように、2010年から2016年(9月)までの間に、建築コストは実に32.3%も上昇している。特に2014年の113.4と比べて、2015年は一気に約20ポイントも上昇して、133.2になったのが目立つ。

 建築コストを上昇させる要因は、一般的には「建築着工面積」と「建設資材価格」および「労務単価」の関係である。それでは「建設資材価格」はどう変化したのだろう。

 驚いたことに、上の図に示すように、2014年は106.9、2015年は106.5、2016年は105.7と少しずつ下落している。また2010年から2016年までの期間を見ても、建設資材価格はわずか5.7%しか上昇していない。

 次に「労務単価の変化」である。

 上の図に示すように、2010年から2016年までの間に、労務単価は実に43.7%も上昇していたのである。

 今後はいったい、どうなるのか。佐藤氏は次のように予想する。

 (A)2020年までの期間は、東京五輪などの集中的な需要が発生するため、建設労働市場では労働者不足が続く結果、労務賃金は上昇していく。

 (B)2020年の東京五輪が終わると、建築着工床面積は減少に転じる。

 (C)それに伴って、就業者数が減少すると予想される。

 (D)さらにCとは別に、2025年ころから高齢就業者の離職が増え、10年間で約100万人が辞めていく見込みである。

 (E)このように、東京五輪後に建築工床面積が減ったとしても、C・Dによって人手不足の状況は解消されないため、労務賃金は上昇を続けると予測される。

 要するに、建築需要が減少しても、人手不足によって労務賃金が上昇するという、今まで経験したことのないパターンになるのである。マンション・デベロッパー各社にとって、かなり深刻な状況が訪れるかもしれない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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