リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年9月19日

第260回マンション価格表を巡る「ユーザーの欲求不満」

 リクルート社の週刊情報誌『SUUMO新築マンション』をパラパラめくっていると、珍しいことに「次期販売住戸の価格表」が掲載されていた。

 このマンションは300戸を超える大規模マンションで、すでに200戸超の住戸を販売済みのようだ。それを受けて、価格表のうち、販売済み住戸については「分譲済」として価格を示さず、次期に販売する30戸分の価格だけを書き込んでいた。

 また単に「空欄」になっている住戸が28戸残っていた。この空欄は、おそらく次々期に最終販売される住戸なのであろう。

 『SUUMO』に掲載された次期販売住戸価格表のうち、低層階から中層階までの一部分(縦一列)を転載する。

 価格表には飛び飛びに6570万円、6380万円、6310万円、5980万円、5550万円とあり、その他は「空欄」もしくは「分譲済」としてある。

 こういう飛び飛びの価格表を見ると、一般の人はどう感じるのだろうか。最初にこれでは不十分として欲求不満になり、次に「空欄」もしくは「分譲済」という個所の価格を知りたい──と思うのではないだろうか。

 上の価格表で手がかりになるのは、「6380万円、6310万円」と上下が連続した箇所だ。すなわち「1階低くなると、70万円安くなるのかもしれない・・・」と推測できる。これに基づいて、「推測価格表」を作成した。

 表の右端にある「推測価格表」は、「1階低くなると、70万円安くなる」ことを手がかりに、計算した結果である。

 これに基づいて設けたのが、表の右から2番目の「損得勘定」欄である。上から2番目の6570万円の住戸は、「推測価格表」には6520万円とあり、それよりは50万円高いので、「割高」という判断になる。

 すなわち、「空欄」もしくは「分譲済」が多い価格表は、ユーザーを欲求不満にするだけではなく、場合によっては不信感をもたらすのである。

 不動産業界の人間は、例えばMERCURY社のリアナビを使えば、分譲マンションの価格表を入手できる。これに対して、ユーザーはどうすれば価格表を入手できるのだろうか。

 私が理解している限りでは、マンション掲示板を運営する「マンションコミュニティ」の「価格スレ」と、マンション購入者のための価格情報サイト「住まいサーフィン」の「物件情報」に、価格表が掲載されているはずである。

 改めて調べてみると、「マンションコミュニティ」と「住まいサーフィン」は互いに協力し合う関係にあって、まったく同一の情報が掲載されていることが分かった。

 ただし、このコラムで取り上げているマンションに関しては、300戸超の住戸のうち20パーセント強に相当する66戸分の価格しか掲載されていなかった。しかも、住戸の位置(住戸番号)が不明だった。こういう情報だけでは、遺憾ながら、ユーザーの欲求不満は解消されそうもない。

 念には念を入れる意味で、今度は「マンションコミュニティ」の「検討スレ」で、1000件近い投稿をざっとチェックした。すると各販売時期ごとの部分的な価格表5種類が、画像データとして掲載されていたのである。購入検討者は誰でも、マンションの全体的な価格と、自分が関心のある住戸の価格を知りたいということなのだろう。

 けれども、残念なことにその解像度が低すぎるために、価格がいくらなのかを判読することができないのである・・・。「とほほっ」。

 こうなったら、MERCURY社のリアナビに頼るしかない。そう考えて、価格表PDFデータをダウンロードしたが、残念なことに300戸超のうち約200戸分しか掲載されていなかった。

 「なぜ、全戸分が掲載されていないのだろう?」。リアナビの担当者に質問すると、次のような回答が返ってきた。

 (1) 売主はこの物件の価格表を、各販売時期(第1期=第1次~第X次、第2期=第1次~第Y次、・・・)ごとに、販売戸数分だけ作成している。

 (2)その結果、各期・各次の価格表は実に100枚を超えている。

 (3)ただし、事務作業の効率化の観点から、価格表の集計作業は、各期・各次ごとではなく、おおむね各期ごとに行っている。

 (4)リアナビに、300戸超のうち約200戸分しか掲載されていなかったのは、以上の事情による。

 (5)したがって、全住戸の販売が完了しなければ、この物件の価格表が完成することはない。

 「うーんっ」。そんな苦労があったのか・・・。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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