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「斜め45度」の視点

2020年6月16日

第354回 ライフル社調査「不動産各社の対コロナ苦難苦闘記」に学ぶ

 日本国内に新型コロナウイルスの感染者が初めて現れたのは、2020年2月上旬のことでした。それから現在までの約4カ月の間、不動産ビジネスに関わる各社はどのような苦難苦闘を続けて来たのでしょうか。

 私が調べた限りでは、その内容を知るための最良の資料は、不動産ポータルサイトの「LIFULL HOME'S」を運営する、「株式会社ライフル」が公表した「新型コロナウイルス感染症に対する不動産事業者の意識調査」だと思われます。

 注目したいのは、不動産事業者に対する意識調査が、ほぼ1ヵ月ごとに3回も実施されてきた点です。

 ◆1回目
  調査実施期間─2020年3月9日~3月12日
  調査対象─「LIFULL HOME'S」に加盟する全国の不動産事業者
  回答件数─925件
  調査結果の公表─3月19日
  URL<https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000126.000033058.html>

 ◆2回目
  調査実施期間─4月6日~4月12日
  調査対象─同上
  回答件数─750件
  調査結果の公表─4月21日
  URL<https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000130.000033058.html>

 ◆3回目
  調査実施期間─5月8日~5月14日
  調査対象─同上
  回答件数─500件
  調査結果の公表─5月20日
  URL<https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000135.000033058.html>

 調査が繰り返されるに従って、回答件数が減ってきたのは少し残念です。しかし、厳しい状況の中で短期間に調査が3回も実施され、多くの不動産事業者がそれに回答したのは、「礼儀正しい、あるいは親切(※注)」といわれる、日本人ならではの「国民性」の現れかもしれません。

(※注)統計数理研究所「日本人の国民性調査──第13次調査結果のポイント」
  URL<https://www.ism.ac.jp/kokuminsei/page2/index.html>

 そして3ヵ月連続して行なった調査の結果、「不動産各社が苦難苦闘する状態」を深掘りできたのは、貴重なことだったと思います。

【■■ライフル社による第1回調査結果(3月19日公表)の概要】 

 調査結果は不動産事業者「全体」、あるいは「賃貸仲介・賃貸管理・売買仲介・売買分譲」という「4業態」ごとにまとめられています。第1回調査の要点を列記しました。

 ① 70%超の不動産事業者が、現時点で「ビジネスに影響が出ている」と回答。

 ② また92%の不動産事業者が、「今後の影響を心配している」と回答。

 ③ どの業態でも、「問合せの減少」「売上の減少」「マスクなどの衛生用品が確保できない」といった影響を受けています。また「商談の延期・中止」も目立ちます。さらに「社員が感染」「濃厚接触者となった」も18 件ありました。その結果、事業所の一時閉鎖などで、企業運営に大きな影響を受けたと思われます。

 ④ 賃貸仲介部門が受けている影響は「来店者の減少」、賃貸管理・売買仲介・売買分譲の各部門が受けている影響は「売上の減少」が最多です。

【■■ライフル社による第2回調査結果(4月21日公表)の概要】 

①92%の不動産事業者が、「ビジネスに影響が出ている」と回答。前月より22%増加しました。

②また、ほぼ全ての不動産事業者が、「今後の影響を心配している」と回答しました。これはアンケート調査を実施している最中に発令された、緊急事態宣言の影響と考えられます。

③さらに80%を超える事業者が「売上の減少」、70%を超える事業者が「来店者・内見者・問い合わせの減少を心配している」と回答しました。すなわち、多くの不動産事業者が、企業活動への影響を「強く心配している」様子が伝わって来ます。

【■■ライフル社による第3回調査結果(5月20日公表)──その概要】 

 ①95.4%の不動産事業者が「ビジネスに影響が出ている」と回答しました。これは誠に驚くべき数字です。緊急事態宣言の発令も相まって、不動産事業者の不安が、ある意味で「極限状態」に達したためと思われます。

 ②今後の影響で最も心配しているのは、4月に引き続いて「売上の減少」です。

 ③売上高は悪化の一途を辿っています。5月は35.5%の不動産事業者が、前年比50%以上のマイナスを予測しています。

 ④在宅勤務で実施できる不動産業務は多数あります。ただし、そのためには、「システム導入」や「慣習の変更」が必要なことが分かりました。

【■■第3回調査結果続き──「在宅勤務について」】

 第3回調査では、「在宅勤務の状況下で、不動産業務を遂行するにあたり、課題だと感じたこと」も質問しています。以下に、その質問に対する「自由回答」の要点を列記しました。

 ◆「システム・セキュリティ」について
  個人情報を持ち帰ることが困難。
  顧客の身分等の確認が難しい。
  会社で導入しているシステムに、社内環境からしかアクセスできない。
  郵便物の転送ができないため、会社宛の郵便物の定期的な確認が必要。
  会社の固定電話は携帯電話へ転送する形で対応できるが、FAXは転送できない。 

 ◆「ルール・運用」について
  遠隔案内ができる物件とできない物件が、オーナーによって変わってくる。
  書類への押印、役所への書類提出が必要。
  物件調査(現地調査や市役所調査)は、足を運ばないと遂行できない。
  掲載する写真の撮影。
  銀行とのやり取り(メール対応不可の銀行が多い)。

 ◆「環境・その他」
  自宅にPCや「Wi-Fi環境」が整備されていないスタッフがいる。
  モチベーションの維持。

 このように、「在宅勤務を遂行するための課題」が分かったことは、「貴重な成果」だったと思います。

【■■第3回調査結果続き──「エンドユーザーに感じた変化」】

 第3回調査結果ではまた、新型コロナウイルス問題の発生前と発生後を比較して、「エンドユーザーに感じた変化(問合せ内容、申込や契約の傾向)」も質問しています。以下に、その質問に対する「自由回答の要点」を列記しました。

 ◆賃貸
  低価格賃料物件希望者の増加。
  法人、新卒、新入学の動きがほぼ無い。
  居住用はさほど変化はないが、事業用(テナント等)は動きが止まっている。
  海外赴任延期等の理由で、慌てて住まいを探すお客様が増加。
  都内のお客様に関しては、若い年齢層の方が来店される場合が多い。
  通勤に交通機関を使用していた方々が、社用車での通勤に変更したため駐車場の契約が増えた。
  IT重説での契約を承諾して頂ける傾向になった。
  管理物件からの退去がなく、満室稼働状態なので安定している。
  「余計な費用がかかるから、更新して様子を見よう」というお客様がすごく多い。
  外国人労働者の退去が増えている。

 ◆売買
  売却依頼が増加する一方、購入依頼が減少した。
  住宅系の物件の問い合わせが少なくなり、事務所等の問い合わせが増えた。
  投資系のお客様は、情報収集を変わらず行っているが、実行動が少なく様子見。
  商談等の減少。
  公務員には影響がない様子で、購入意識が減ってはいない。
  資金力がある方は、「ここがチャンス」と購入意欲がある。
  ご家族全員での内覧が減少。

 ◆賃貸・売買共通
  問合せは増えたが、来店来場につながりにくい。
  確度の高い問合せが増えている。
  来店せず、現地で直接待ち合わせを希望するユーザーが増加。
  直接来店(飛び込み)のお客様が減った。
  低額物件中心の問合せ。
  奥さんもしくは旦那さんが「医療従事者」のため、別居を検討している(※)。

 この自由回答を読むと、「エンドユーザー各人の立場、興味を持つ分野、経済力」などによって、行動パターンが多様化した様子が手に取るように伝わって来ます。これもまた、「不動産ビジネスのコロナ前とコロナ後」を考える上で、「貴重な成果」だったと思います。

【補足──医療従事者への感謝】 

 私にとって特に印象が深かったのは、自由回答の最末尾にある、「奥さんもしくは旦那さんが医療従事者のため別居を検討している(※)」という一文でした。

 こういう文章に触れると、新型コロナ対策の最前線で苦労する医師や看護師さんを思い出して、自然に頭が下がってしまいます。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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