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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2011年6月14日

第34回米証券会社が評価した六本木ヒルズ「3重の電気供給源」

 大震災以降、「停電に強い」として急速に評価が高まったのが、54階建ての森タワーを中心に、43階建てのレジデンス棟2棟などで構成される「六本木ヒルズ」である。

 六本木ヒルズは3重の電気供給源を持つ。

 1 都市ガス(東京ガス)を利用した発電。

 2 電力会社(東京電力)からの供給。

 3 灯油による自家発電。

 通常は都市ガスを利用して発電し、ガスが停止した場合には、配電設備を経由して電気を供給する。また、ガス、電気ともに停止した最悪の事態には、灯油を燃料とする非常用発電機を稼働させて電気を供給する。

 六本木ヒルズが完成したのは2003年4月。その当時、3重の電気供給源を評価して、入居を決めた企業がある。米国を代表する証券会社A社である。

 証券会社にとって、最も重要なのは「情報システム」と「売買システム」になる。停電によって情報システムが遮断されたり、売買システムに蓄えられたデータが消失するような事故が発生すれば、企業として致命的なダメージを被ってしまう。よって、情報システムと売買システムは、例えば、東京と大阪などに置いて2重の体制にしておくのが望ましい。それに加えて、東京でも大阪でも、停電が限りなくゼロに近いビルに入居するのが理想的である。

 感服するのは、証券会社A社が、リスクコンサルタント会社B社に依頼して、六本木ヒルズの電気供給システムに「穴」がないか、詳しく調べてもらったことだ。都市ガスの供給が停止する危険性は何パーセントか、常用発電機のエンジンが故障する可能性は何パーセントか、故障を直すのに必要な時間は何時間か・・・、といった具合である。

 B社のCさんは、次のように話してくれた。

 「リスクコンサルタントという仕事の基本は、最悪の事態を想定して、その対策を用意しておくことです。最悪の事態さえ想定できれば、事業からの撤退も含めて、手の打ちようがある。しかし、想定できなければ、当然ながら、手の打ちようがありません」

 「福島第一原子力発電所は極めて深刻な事態に陥っています。東京電力や原子力安全委員会は、事故の原因を『想定外』の大津波によるものとしているが、それは間違い。根本的な原因は、リスク管理を怠っていたことにあります」

 

 【資料】

 森ビルのニュースリリース「東京電力に六本木ヒルズ発電設備の電力を提供」

 http://www.mori.co.jp/company/press/release/2011/03/20110317180000002146.html

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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