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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2014年7月22日

第146回三井不動産レジデンシャルの「追撃」(後編)

 三井不動産レジデンシャルが開発した、住戸内の間仕切りを自由自在に変更できる「カナウプラン(KANAU PLAN)」方式の最大の特徴は、「可動間仕切り収納(Kanau Shelf)」と名付けた独特の収納ユニットにある。


 図に示すようにクローク用、下足用、シェルフ用、デスク用など各種ある。特にドア(引戸)を取り付けた建具ユニットを用意して、好きな場所にドアを設けられるように工夫したのが面白い。収納ユニットは床から天井一杯まで届く高さがあり、感触的にはシステム家具に近い。

 また収納ユニットの下部にキャスターを内蔵しているため、軽く押すだけでスムースに移動できる。固定時には、内部に格納した昇降ハンドルを操作してユニットを上昇させ、天井にしっかりと突っ張ることで、地震による転倒や移動を防ぐ。

 カナウプランを導入した住戸の写真を見てみよう。


 これは「リビングの広さを重視した住戸」。


 これは「リビングのそばに大きな洋室を設けた住戸」で、建具ユニットに装着した引き戸が見える。「カナウプラン」の希望者は、インテリアコーディネーターと何回か打合せをした後に、必要分の収納ユニットをオーダーする。

 収納ユニットは三井不動産レジデンシャルが家具会社と共同で開発した。それで連想するのが、三菱地所レジデンスが無印良品とタイアップして、2011年1月に完成させた「スタイルハウス目黒緑が丘」である。

 このマンションでは、自由設計方式に2つの工夫を追加した。第1に、一般のマンションと同じように、標準プランの住戸を用意したこと。これは、「標準プランの方が簡単でいい」と考える客も少なくないため。

 第2に、無印良品の協力を得て、各標準プランごとに3?4タイプの基本プランを用意したこと。例えば、リビング・ダイニングと寝室の間に可動間仕切りを設けた「可動間仕切りで広がる住まい」、バルコニーに面した位置に洗濯室兼洗面室を置く「室内干しができる住まい」、室内一杯に畳を敷いた「畳の間を様々に使う住まい」といった具合である。

 話を整理しておこう。

 【従来型の方式】

 標準プランに加えて、メニュープラン(=簡単な代替プラン)を用意する。

 【三菱地所レジデンスの方式】

 各標準プランごとに、3?4タイプの基本プラン(=じっくり練り上げた本格的なプラン)を用意した。9種類の標準プランごとに、数タイプの基本プランを開発したので、合計すると29種類ものプランになった。

 この基本プランを開発するに際して、無印良品は200万人のネット会員を対象に「住まい方」アンケートを実施。その結果に基づいて練り上げたというだけあって、従来にはない新鮮なプランが多かった。三菱地所レジデンスは無印にちなんで、これを「MUJIプラン」と名付けている。

 特筆したいのは、すべてのMUJIプランについて20分の1模型を用意したこと。図面だけでは分かりにくくても、模型があるとリアルなイメージをつかみやすい。

 このように、三菱地所レジデンスのMUJIプランは、収納家具に定評のある無印良品と共同したにもかかわらず、家具のシステム化を目指すのではなく、基本プランの数を増やす方法で自由設計に近づける方向を選択した。ただし、準備に手間暇がかかりすぎるとして、MUJIプランが広く普及することはなかった。

 これに対して、三井不動産レジデンシャルのカナウプランは、家具会社との共同を生かして家具のシステム化を目指し、収納ユニットの種類を増やす方法で自由設計に近づける方向を選択した。

 カナウプランは効率性の高い方法である。また収納ユニットは工場で生産され、現場では比較的簡単に組み立てられるので、人手不足が深刻化している建築作業員の手をわずらわす心配も少ない。その面からも、野村不動産が独走状態にあるオーダーメード(自由設計)方式を追撃する、有力な手段になり得るポテンシャルを秘めているのである。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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